- 作者: 佐川光晴
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2019/01/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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☆☆☆☆☆ 星5つ
三行要約
・厳しい棋士への道と狭き門
・壁を超えるためにもがくも超えられる人はわずか
・「将棋に懸ける人」を応援する人々の想い
棋士を目指し将棋に懸ける少年少女やその家族、将棋界にかかわる人々などを主人公とする7つの話で構成されている。
それぞれの話が独立するも、他の章での主人公が別の章のサブキャラとして登場している。
7章を通して「大辻弓彦」君の成長がうかがえるようになっている。(どの章でも大辻弓彦君は主人公になっていないが)
棋士になりたい少年少女の努力や挫折、厳しい将棋の世界が描かれていて興味深い。
また棋士を目指す我が子に対し親の心情や将棋の新聞記者の失敗なども描かれている。
7章とも面白い。その中でも
第1章、第5章、第7章が特に面白かった。
第1章の主人公は、将棋会館の掃除のおばちゃん。
旦那も友人もいない68歳のおばちゃんが、1人きままに大阪旅行の際にふいに行った将棋会館で、ある少年と再会。
それをきっかけに、イマイチ良く知らなかった将棋界のことを良く知りたいと思い、また自分でも将棋を始めようと思う。
何かを始めるのに歳は関係ない。
自分も友達いなく、嫁は全く違う趣味で、1人でどんな老後になるのだろう?と最近思っている。
このおばちゃんのように、1人でも好きなことして楽しく生きていけたらいいなあ。
第5章は、なかなかプロになれない三段の青年の話。
腰をすえて考えようと決めたとき、僕は頭のなかを二つに分けます。(中略)片方では理詰めで合理的に考える。(中略)その一方で、全く思いもよらない手を探すのです。(中略)そこで、頭の一部をわざとぼんやりさせて、漠然とした状態にしてやるんです。そして、そのぼやけたほうの頭で、思いもよらない妙手はないかとぼんやり考える。
参考になる思考方法だ。
アイデアが出ないときは気分転換した方がよい。
僕は散歩しているとよいアイデアが浮かぶときがある。
あるできごとがうまくいきすぎて若干の不満も、谷川先生の「高速の寄せ」のようだと。
書きすぎると面白くないので詳しくは書きませんが、この小説で一番面白い話だったな。
第7章は、63歳の森川九段の話。
くも膜下出血で、まともに将棋をさせなくなるも再起をはかって悪戦苦闘する話。
100%の力が出せなくなった時、いかに生きるか。考えさせられた。
指のほうが先に動き、頭がその手の意図を後追いで理解するといった経験を何度となくしてきた
こういうプロならではっていうエピソードって好きだな。
指にまつわる名言が将棋界にはたくさんあると書かれている。
将棋って良く分からなくても観戦してるだけでも面白い。
将棋の小説は面白い。
過去に読んだ面白かった将棋小説。
盤上の向日葵 /中央公論新社/柚月裕子
実在した真剣士「小池重明」の実録史。すごく面白い。賭け将棋に生きる小池の濃い生きざま。一気に読んでしまいました。