☆☆☆☆ 星4つ
3行ポイント
・めちゃくちゃな人間「陣内」の言動を周りの登場人物の目線で描写
・陣内の支離滅裂な行動が、結果的に物事の解決につながる
・視覚障害者「永瀬」の並外れた洞察力と推理力
15時ジャストに銀行へ到着するも「営業は終了なんですよ」と銀行員に柔らかく断られた際の、陣内の返答がおもしろい。
閉店時間が何だって言うんだよ。時間よりも客のほうが大事だろ。タイム・イズ・マネーと言うじゃないか。時間は金ってことは、金を預かるのが銀行なんだから、ここには時間だってあるんじゃないか。そうだろ?
チルドレン 伊坂幸太郎 から引用
めちゃくちゃな理論だが、すぐにこういう返事ができるのがすごい。
陣内の思考や言動がとにかくおもしろい。
それを周囲の人間からの目線で描写しそれぞれ感想を述べる。
みんな「変わった奴、ちょっとめんどくさい奴」と思いつつも本心では嫌いではない。
たまに絡んだりするくらいなら楽しかったり、言動を思い返してみると吹き出してしまったりするタイプ。
少年専門の家裁調査官である陣内の仕事ぶりは適当に見えのだが、塞いだ少年の心を何故か快方に向かわせたりする。
陣内が主役だとすれば、次の主役は視覚障碍者の「永瀬」でしょうか。
以下は常識人である「鴨居」が「永瀬」にそっと聞いた内容。
「目のことをいろいろ言われるのは嫌じゃないか?たいていの人ってのはランク付けをしたがるだろ。目が見えない奴はそれだけで自分よりも上位だとか、下だとか。」
彼は笑みを浮かべた。
「嫌な時もあるしそうじゃない時もあるよ。ただ、慣れたかな。目が見えないことにも、下らないことでランク付けされることにも、慣れたよ」
最後の章にて「陣内」の描写をするのは「永瀬」。
永瀬は、特別なことがない何でもない日が幸せで、そんな日がいつまでも続けばいいなと思うも、そんな考えは甘いのかなとも思っている。
作者は、視覚障碍者であるが故の優れている点、観察力、洞察力、推理力と表現しつつも、彼らの生きにくさを表したかったのかな。
周囲の心無い言葉、悪意のない言葉に中には傷つくことも。また、それに対するあきらめ。
陣内の話で読者をひきつけつつ、本当に作者が言いたい内容は、「障害のある方含め、みんなが住みやすい世の中になってほしい」ということでしょうか。
久々に伊坂作品を読んだら「陽気なギャング」を読みたくなってきたなあ。